シンボル・ツリー 03/04/07
「その苗木は何の木ですか?」
帰り道、ビール一本ひっかけて座った京葉線で、隣に座った初老の夫婦に声を掛けた。
「これは、岐阜の根尾谷の桜の種からとった苗木なんです」。
「へー。薄墨桜ですよねえ」。
「若いのによく知ってるねえ」。
「以前、仕事で根尾村に行った事があるんですよ。最近、庭つくってて、木ばっかり見てるもんで….」。
「でも、桜は庭には植えない方がいいよ。根が張りすぎて、周りの木を駄目にしてしまうから」。
そんな話をしていると、会話に他のサラリーマンも加わってきて、花談義に花が咲く。近頃、電車の中のコミュニケーションといったら、女子高生のお喋りか、酔っ払いの喧嘩くらいのものかもしれないが、ここでは、苗木一本あるお陰で、楽しいコミュニティが瞬時に生まれた。
「庭のシンボル・ツリーをどうしようか?」というのが、今週末の我家の大きなテーマだった。
北西にあるエントランスの脇には、常緑の花木を植えたい。南側のウッドデッキの前には、大木になる広葉樹。
南側には、ケヤキがよさそうだ。子供の頃から耳慣れた木で、故郷の森を思い出せる。また、このガーデニング・ブームの中でも株立ちのケヤキが人気があるようだ。「株立ち」という木の仕立て方を知って、それがいいと言って妻は、耳にタコが出来るくらいその言葉を連発する。
ホームセンターのケヤキの木を見たら、「どうも小さい」と妻が言い出す。
「シンボル・ツリーぐらいは多少お金がかかっても、大きなものを買った方がいいんじゃない?」
家に戻ってタウンページを捲って、山武町にある植木屋さんに出かけてみた。
たまたま上から順にと思って電話して、出かけたその植木屋さんは、千葉県で一番広い植木の畑を持っているところだった。行ってみると、入口に、大くて見事な株立ちのケヤキが何本もある。
10年もののケヤキで樹高は6メートルもあるものだった。これだと、2階の寝室からも、毎朝、眺められる。
妻が、別の植木屋さんに電話するとこんなことをいったそうだ。
「ケヤキは、すぐに大きくなって手に負えなくなるから、やめて、ヒメシャラやヤマボウシにした方がいいですよ。」
いやいや剪定ぐらいちゃんとするよ。やっぱり、大きなケヤキがいい。
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